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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)8号 判決

愛媛県八幡浜市一五八一番地

上告人

太陽石油株式会社

右代表者取締役

青木繁吉

右訴訟代理人弁護士

西村寬

被上告人

右代表者法務大臣

加藤鐐五郎

右当事者間の戦時補償特別課税取消請求事件について、高松高等裁判所が昭和二七年九月二九日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨第一点は、本件更正決定が当然無効なることを前提として、原判決の違法を主張するが、仮りに所論のごとく上告人の戦時補償請求権が不存在であるとしても、これに対してなした本件戦時補償特別税の課税価格の更正決定は、存在していない戦時補償請求権を誤つて存在するものと認定した違法があるに帰し、一応は有効であつてただ瑕疵ある行政処分として取消されうるものたるに止まると解すべきであつて、この点に関する原判決判示は相当であり、所論は理由がない。同第二点、第三点は、原判示に副わない事項を主張するものであつて(原判決は何ら本件と訴願法等との関係を判示しているものではない)すべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

(参考)

昭和二八年(オ)第八号

上告人 太陽石油株式会社

右代表取締役 青木繁吉

被上告人 国

上告人の上告理由

一、原審判決は上告人の戦時補償特別税の課税対象は不存在であるから課税権は発生せず不存在なりとの主張に対し仮りに不存在としてもその不存在は取消の原因となるものであつて無効原因とはならないとして取消なき限り課税は適法なりと判断して上告人の請求を棄却したのである。

然れども無から有が生ずる理なく、不存在の課税対象から課税権発生の余地はないのであります。戦時特別措置法に基き国は抽象的な課税権は有するも具体的には不存在課税対象に対しては当初よりかかる課税の発生の由なき事明かであります。この理はたとへ国が課税対象なきに拘らずありと誤信して課税した場合に於ても同様であつて其の課税によつて決して具体的に課税権が発生するのでない。ただ手続上、形式上かかる課税行為が行はれたのに過ぎないのであつて実質的に課税権発生していない。従つて本件に於ても課税対象なき限り其の課税権は発生しない。従つて存在しない。然るに原審判決はかかる上告人の主張は取消原因であつて無効原因でないとして上告人の請求を棄却したのでありますが上告人は課税権は発生せずと確信するのであります。若し原審の通りだとすれば単なる課税処分、一方的な告知により課税行為が一応有効に存在するのであつて無より有が生じた結果となるのでありまして誠に不合理だと云わねばなりません。

右の次第でありますので原審判決は法律の解釈を誤つた違法ありと信ずるのであります。

二、本件は課税の対照が無いから課税を以て臨むべきものでもなく、したがつて訴願法等に拠るべきでないのが本件訴の性格であります。然るに本件第一審、第二審共に「上告人の云うが如く更正処分の存在しない戦時補償請求権を誤つて存在すると認定したという違法があるに過ぎず斯ような違法の存在は該処分の無効の原因となるのでなく唯取消の原因となるに止ると解する」とありて本件の如きは訴願法に拠るべきものとして裁判する事を回避して居るものであります。又被上告人である八幡浜税務署に於ても国の本件訴訟代理人に於ても右の趣旨と態度を以て応訴し裁判所はこれを肯認して上告人に対し敗訴の判決を為して居るものであります。

三、然れども訴願法は租税及手数料の賦課に関する限定せられた事件の救済規定に過ぎないのであります。

本件は戦時補償の請求権が有るか否やの訴へでありますが故に請求権が無ければ租税に関係が無いのであります。租税に関係が有るか無いかは第一審に於ても実態の審理を行い裁判をする外なく証人調べとなつております。而して戦時補償の請求権、即ち租税の問題なるや否やは、本件に於ては旧海軍第三燃料廠との間の契約の如何に尽きておつたのであります。

然るにこの契約書は既に中村良雄の証言に依つて自己が勝手に作つた文書なることが表明せられこの為め上告人は中村良雄に対し公文書僞造の罪ありとして告訴を提起しその写を第二審へ証拠として提出して居りますが唯今その告訴事件の取調べの進行を検察庁へ要請して居るものであります。(同封告訴並に告訴処分要請に関する上申書写し添付)

この告訴事件が公文書僞造として処分せられるに於ては契約が存在せなく併せて租税問題は無くなりますから第一審、第二審の判決の如く本件訴への性格を無視しての判決は適法を欠くものと信じますので上告に及べる次第であります。

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